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勉強の仕方

「解説を読んだら自力で解けなくなる」は誤解──模倣と学習の科学

「問題をすぐに解説で確認するのはよくない」「解説を読んだら、自分の力で解けなくなる」──こんなふうに言われた経験はありませんか?
一見もっともらしく聞こえるこの主張ですが、科学的に見ると、必ずしも正しくありません。

この記事では、「解説を読む=悪」ではないということを、学習科学・認知心理学の観点から明らかにします。特に、**模倣学習(imitation learning)や認知負荷理論(Cognitive Load Theory)**などをもとに、なぜ「模倣→理解→応用」というプロセスが重要なのかを解説します。


「自力で考え抜く」が必要な場面とは限らない

もちろん、全てを最初から答えに頼っていては学習になりません。しかし、初学者がすべてを自力でやろうとするのは効率が悪く、非科学的です。

脳の学習メカニズムは、「模倣→再現→応用」という段階的プロセスを基本としています。ピアジェの発達段階論においても、観察や模倣によってスキーマ(知識の枠組み)を構築する段階が存在します。

つまり、「まずは真似る」が正しいのです。


模倣は「ズル」ではなく「正攻法」

学習における模倣は、決して「自分で考えていない」という意味ではありません。むしろ、正しい解法の模倣を通じて、脳が情報処理のパターンを身につけていくのです。

これは、スキル習得の初期段階では模倣がもっとも効果的であることを示したバンデューラの「社会的学習理論」や、アンダーソンの「スキル獲得モデル」によっても裏づけられています。

  • 模倣 → 理解 → 応用
  • 具体例 → 一般化 → 応用

このようなプロセスをたどることで、知識は抽象化され、最終的に「自分のもの」になります。


認知負荷を減らすのが効率的学習のカギ

「自力で解くこと」が重視される理由の一つに、「考える力を鍛えたい」という意図があります。しかし、初学者にとっては問題を解く以前に理解すべきことが多く、脳に過剰な負荷がかかるのが実情です。

これを説明するのが、**認知負荷理論(Sweller, 1988)**です。人間のワーキングメモリには限界があり、難しい問題を考えるとそれだけで負荷が高まります。

この負荷を下げるためには、

  • 正しい手順を観察し、
  • それを模倣し、
  • その上で応用に移る

という順序が理にかなっています。


解説を読むことが「自力の学習」への近道になる理由

「すぐに解説を読んだら考える力がつかない」という主張は、表面的な自力学習にこだわりすぎています。

実際には、以下のような理由から、適切なタイミングでの解説確認は学習効率を高めます

  • 理解のズレを即座に修正できる
  • 間違えた理由が明確になる
  • 正しい考え方の筋道をインプットできる

特に間違えた問題は、**「なぜ間違えたか」「正しい思考過程はどうか」**を知ることで、学習の効果は何倍にも高まります。


「見て学ぶ」はスポーツでも当たり前

スポーツの技術指導では、「まず見て真似る」「フォームをコピーする」ことが普通です。野球のバッティングや水泳のフォームなど、モデルを模倣することで効率よく習得が進むことは誰もが知っています。

勉強でも同じです。

数学の証明、英作文、読解問題の解き方など、「上手な人のやり方を真似て自分の中に取り込む」ことは、学習の初期段階において非常に有効です。


解説の「読み方」に工夫を加えればさらに効果的

ただし、漫然と読むだけでは効果が半減します。以下のように工夫することで、解説の学習効果を最大化できます。

  • 解説を読む前に、自分の解き方と照らし合わせる
  • なぜそのステップを踏んでいるのか、理由を考える
  • 次に出てくる類題で同じ解法を再現してみる

このように、**「模倣→確認→再現」**というサイクルを回すことが大切です。


まとめ:学習は「自力で考える」よりも「正しい理解」が先

勉強において「自力で解かないと意味がない」という考え方は、誤解を生む恐れがあります。
学習科学の視点から見れば、正しい手順を模倣し、再現し、応用するというプロセスこそが王道です。

そのためにも、「解説を読んだらダメ」という思い込みは捨て、解説を“どう読むか”を工夫することが、結果的に「自力で解ける」力を伸ばす近道になります。

問題を解くための手掛かりがほとんどないまま「考えなさい」と言われても、「何を考えればいいかわからない」という状況に陥ってしまいます。

スタディブレインでは、解説を読むことを推奨しています。なぜなら、正解がわかっているからこそ、「その答えになるためにどう考えればいいのか」を考えられるようになるからです。

自分でゼロから考えられる人間は存在しません。考えるときには、必ず何らかの手掛かりが必要なのです。

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プロフィール:

和田晶平 スタディブレイン和歌山駅東口教室勉強コーチ

哲学と歴史が大好き 最近は中国古典にハマっている

スタディブレイン和歌山駅東口教室

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