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「ながら勉強は効率的」って本当?マルチタスクの認知科学
音楽を聴きながら、テレビをつけながら、スマホの通知をチラチラ見ながら――
「ながら勉強」は現代の中高生にとってごく当たり前の学習スタイルになっています。中には、「自分は音楽がないと集中できない」と感じている人も少なくありません。
しかし、こうした“ながら勉強”は本当に効率的なのでしょうか?
結論から言うと、認知科学の観点では「非効率的」である可能性が極めて高いのです。
本記事では、「ながら勉強」がもたらす脳への影響を、科学的根拠をもとに解説します。
なお、マルチタスクのデメリットについては以前の記事でも述べましたが、今回はマルチタスクの認知科学についてさらに深堀しています。また、どうしても音楽が必要という人のために、すぐに実践できる工夫も紹介しています。
参考:【要注意】勉強中のマルチタスクが逆効果な理由とは?科学的に解説 | スタディブレイン
マルチタスクは脳にとって“嘘の効率”
多くの人が「私は同時にいろいろなことができる」と信じています。しかし、脳科学や認知心理学の研究によれば、人間の脳は真の意味でのマルチタスク(複数の作業を同時並行で処理すること)には向いていません。
実際にやっているのは「高速なタスクの切り替え」にすぎず、これを**スイッチングコスト(切り替えコスト)**と呼びます。
スイッチングコストとは?
スイッチングコストとは、ある作業から別の作業に切り替えるときに発生する“目に見えない負担”です。
たとえば、数学の問題を解いている最中にスマホの通知を見たとしましょう。通知を確認したあと、再び問題に戻ったときに**「さっきどこまでやってたっけ?」と戸惑う瞬間**があるはずです。
この「一時的な混乱」や「注意の再集中」にかかる時間が、スイッチングコストです。
研究では、このコストにより学習効率が最大40%も下がることが示されています(Rubinstein et al., 2001)。
注意資源には限りがある
もう一つの重要な概念が**「注意資源」**です。脳の注意力は無限ではなく、限られたリソースとして使い回しています。
勉強しながら音楽を聴くと、音楽の処理にも注意資源が割かれ、肝心の勉強に集中できなくなります。
特に歌詞のある音楽は言語処理を必要とするため、読解や暗記のパフォーマンスを下げることが複数の研究で示されています(Salame & Baddeley, 1989)。
「ながら勉強」がとくに悪影響を与える学習内容
以下のような学習では、「ながら勉強」の弊害が特に大きくなります。
- 英語や国語の長文読解:言語処理が中心となるため、音楽や会話によって内容理解が阻害されやすい。
- 数学や理科の問題演習:途中式や条件を追うために集中力が必要で、気が散ると解法の流れを見失いやすい。
- 暗記科目の記憶定着:記憶形成に集中が不可欠で、情報の再生(アウトプット)にも支障が出やすい。
それでも音楽を聴きたい場合の工夫
どうしても音楽がないと落ち着かないという人は、以下のような工夫で被害を最小限にできます。
- インストゥルメンタル(歌詞なし)を選ぶ
- テンポが一定の環境音や自然音を使う
- 作業と作業の“切り替え時”に音楽を流す
- 暗記以外の“単純作業”の時だけ流す
つまり、「集中すべきタイミング」と「休憩や雑務のタイミング」を明確に分けることが重要です。
勉強効率を最大化するためには?
科学的な見地から見て、勉強効率を高めるには「シングルタスク」を徹底することがもっとも効果的です。
- スマホは別の部屋に置く
- 音楽を止めて“無音”の環境を作る
- 25分作業+5分休憩の「ポモドーロ・テクニック」を活用する
これらはすべて、集中資源を一点に集める工夫です。
まとめ
「ながら勉強」は、一見すると効率的に思えるかもしれませんが、脳の構造的には大きな非効率を生み出します。
特に、スイッチングコストや注意資源の分散といった問題が、あなたの集中力と学習効果を大きく削いでいる可能性があります。
勉強の質を高めたいなら、まずは“同時並行”をやめて“集中”に切り替えること。
「マルチタスク脳」よりも「シングルタスク脳」を育てることが、結果的に最短の学習ルートなのです。
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プロフィール:
和田晶平 スタディブレイン和歌山駅東口教室勉強コーチ
哲学と歴史が大好き 最近は中国古典にハマっている
スタディブレイン和歌山駅東口教室